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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)178号 判決

山梨県西八代郡下部町市ノ瀬898番地

原告

阿部敏

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

同指定代理人

宮本晴視

大野克人

奥村寿一

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成3年審判第21312号事件について平成5年9月8日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年6月24日、名称を「電球型蛍光灯ランプ」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(昭和60年実用新案登録願第96381号)をしたが、平成3年9月27日拒絶査定を受けたので、同年11月7日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第21312号事件として審理した結果、平成5年9月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

2  本願考案の要旨

蛍光灯用の安定器を内蔵させない電球型の蛍光灯ランプに、コンデンサーと、点灯管を、直接取り付けずに、蛍光灯機具から、間接的に取り付けられるように、この蛍光灯のフィラメントとフィラメントの間に、コンデンサーと点灯管を、取り付ける為のさしこみ口を取り付けた、電球型の蛍光灯ランプ。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  これに対し、本願考案の出願前に日本国内において頒布された実願昭55-138256号(実開昭57-61709号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和57年4月12日特許庁発行)(以下「引用例1」という。)には、「安定器コネクタ受6a′およびランプコネクタ受5a′を有するアダプタ4aが一体に設けられたスクリューソケット4と、このスクリューソケット4に設けられたアダプタ4aに前記安定器コネクタ受6a′および安定器コネクタ6aを介し着脱可能な安定器6と、前記スクリューソケット4のアダプタ4aに前記ランプコネクタ受5a′およびランプコネクタ5aを介し着脱可能な放電ランプ5とからなるランプ装置」(第1頁6行ないし15行)、「放電ランプ5は、内面にけい光塗料が塗布されたランプ外管5bと、このランプ外管5b内に設けられ且つU字状に形成され両端にそれぞれ電極フイラメント5c、5cが設けられ放電管として機能するランプ内管5dと、電極フイラメント5c、5cに接続されたグロー管5eと、ランプ外管5bの上部に設けられ且つ電極フイラメント5c、5cに接続されたランプコネクタ5aとからなっている。なお、この場合、グロー管5eはランプ外管5bの外部に別途設けるように構成することも可能である。しかして、スクリューソケット4を有するアダプタ4aのランプコネクタ受5a′に放電ランプ5のほぼT字状のランプコネクタ5aを差し込み、例えば半回転させるとアダプタ4aと放電ランプ5とを一体化し得、このようにして電球ソケットイン型のランプユニット7を構成することができる。」(第4頁末行ないし第5頁18行)、「アダプタ4aに安定器コネクタ受6a′および安定器コネクタ6aを介し別体となっている安定器6を接続すれば所謂放電灯原理によって動作点灯するランプ装置を得ることができる。この場合、安定器6は器具内のデットスペースに配置してもよいし、他の適当な箇所に設けても良い。」(第6頁6行ないし12行)、及び「(ロ) アダプタ、コネクタにより容易に安定器と結線できるので、例えば従来の電球を本考案の放電ランプと交換したい場合、安定器用配線を挿通するための孔を器具の1ヶ所にあけ、かつ器具裏または適宜のデットスペースに安定器をセットするのみで、非常に簡易に従来器具を殆んどそのまま使用でき、経済的である。(ハ) 一般にアダプタおよび安定器は長寿命であるが、放電ランプ自体は安定器等に比べて寿命が短かく、消耗品としてのランプはアダプタ、コネクタを介し容易に単独交換でき、ランプに一体に安定器が組み込まれてなる構造の放電ランプに比べ経済的である。(ニ) アダプタから安定器コネクタを外せば普通の電球に戻すことができ簡単である。」(第7頁4行ないし19行)の各記載がある。更に、第1図には電球型ランプ形状のランプユニットが記載されている(別紙図面2参照)。また、昭57-123602号公報(昭和57年8月2日公開、以下「引用例2」という。)には、「蛍光ランプが損傷しても、この蛍光ランプを簡単に交換することができ、比較的高価で、蛍光ランプより寿命の長い安定器や点灯回路を廃棄することなく再度利用することのできる装置の開発が進められている。」(第1頁右下欄12行ないし16行)の記載、及び第1図ないし第4図の説明として「シャーシ部は、一端に電球形口金である電源口金(11)を備え、他端に開口を有し、この開口にコイルチョーク(12)を取り付け、内部に点灯管(13)、雑音防止用のコンデンサ(14)、内部スイッチ(15)、このスイッチに電気的に接続するシャーシ端子(16)を有するシャーシ本体(17)により構成される。」(第2頁右上欄5行ないし10行)の記載があり、更に第4図にはコンデンサと点灯管が蛍光灯のフィラメント間に設けられることが記載されている(別紙図面3参照)。

(3)  そこで、本願考案と引用例1に記載の考案(以下「引用考案1」という。)とを対比する。

引用考案1におけるランプユニット7も、スクリューソケット4は、蛍光灯用の部品類を内蔵するものでなく、かつ、放電ランプ5内にも内蔵するものではなく(引用例1には前記したように点灯管は、放電ランプ外に設けることができると記載されている。)、該ソケット4は電球型の放電ランプ5と一体的に取り扱い得るものであるから、本願考案の蛍光灯用の安定器を内蔵させない電球型の蛍光ランプに相当し、また、引用考案1では蛍光灯用の部品類の一つである安定器は蛍光灯器具内にあり、これのランプユニットヘの取り付け方は蛍光灯器具から間接的に、取り外し可能に取り付けられるものであって、その取り付け部は蛍光灯ランプに設けられているから、両者は、蛍光灯の安定器を内蔵させない電球形の蛍光ランプに蛍光灯用の部品類を直接取り付けずに、蛍光灯機具から、間接的に取り付けられるように取り外し可能な取り付け部を設けた、電球型の蛍光ランプである点で一致しており、次の点で相違する。

〈1〉 本願考案では、取り付け部に取り付けられる蛍光灯用の部品がコンデンサーと点灯管であるのに対し、引用考案1では、取り付け部に取り付けられている部品が安定器である点。

〈2〉 本願考案では、取り外し可能な取り付け部の構造をさしこみ口を有するものとしているのに対し、引用考案1ではその構造を明記していない点。

(4)  そこで、相違点について検討する。

〈1〉 相違点〈1〉について

蛍光灯においてフィラメント間にコンデンサー及び点灯管を設けるものは周知であるし(例えば、引用例2参照)、これらを蛍光ランプとは別に取扱いができるようにするために、すなわち、蛍光ランプと蛍光灯用の部品との寿命の差からくる、蛍光ランプが不良になった場合に、まだ使用可能な蛍光灯用の部品を一緒に捨てるという不経済がなく取り扱えるようにするために、コンデンサー、点灯管及び安定器等を蛍光ランプの外で、それに対して取り外し可能に設けることは引用例2により公知であるから、上記取り付け部に取り付ける蛍光灯用の部品をコンデンサー及び点灯管とし、その取付けをフィラメント間とすることは当業者が極めて容易になし得たものと認める。

〈2〉 相違点〈2〉について

取り外し可能な取り付け部は、電気的接続を目的とするものであり、電気的接続を目的とする取り付け部をさしこみ口構造とすることは、当該技術分野において従来周知であるから、取り付け部をさしこみ口構造とすることは当業者が極めて容易になし得たものと認める。

(5)  したがって、本願考案は、前記引用例1、2に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、相違点〈2〉の認定は認めるが、その余は争う。同(4)は争う(但し、蛍光灯においてフィラメント間にコンデンサー及び点灯管を設けるものが周知であることは認める。)。同(5)は争う。

審決は、本願考案と引用考案1との一致点及び相違点〈1〉の認定を誤り、かつ、相違点〈1〉及び〈2〉についての判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  一致点の認定の誤り(取消事由1)

引用例1(甲第3号証の2)の第2図に記載されているとおり、引用考案1のグロー管(点灯管)5eはランプ5b内部に設けられている。また、引用例1には「安定器を電球ソケット内に入り得る位に超小型化し、」(第2頁19行、20行)、「安定器6は器具内のデットスペースに配置してもよいし、他の適当な箇所に設けても良い。」(第6頁10行ないし12行)と記載されていることからしても、引用考案1の安定器は装置部(アダプタ)に設けられているものである。

このように、引用考案1は、安定器を装置部に、点灯管をランプ部に設けているのに対し、本願考案は、蛍光灯内に蛍光灯用の部品を一つも入れていない。

したがって、一致点の認定は誤りである。

(2)  相違点〈1〉の認定の誤り(取消事由2)

コンデンサーと点灯管はランプ部に、安定器は装置部に取り付けるものである。安定器をランプ部に取り付けても何の役にもたたないし、コンデンサーと点灯管はランプのフィラメント間に取り付けないと何の役にもたたないのである。

このように取り付け場所を異にする部品について、相違点として取り上げることは相当でなく、相違点〈1〉の認定は誤りである。

(3)  相違点〈1〉の判断の誤り(取消事由3)

本願考案において、コンデンサー及び点灯管等の蛍光灯用の部品を蛍光灯ランプに直接取り付けずに、蛍光灯機具から間接的に取り付けられるようにして機具とランプを別体にし、取り外し可能とした目的と、引用例2の考案において点灯管とコンデンサ等の部品を取り外し可能とした目的とが同じであっても、本願考案は、蛍光灯機具からのさし込みをランプ部のさしこみ口に取り付けるものであるのに対し、引用例2のものは、コンデンサ、点灯管、安定器等を、蛍光ランプ部と部品的に取り付けるもので、取り外し可能に設けたものではなく、蛍光灯用の部品の入った独自のランプ装置に、この装置にしか使えない蛍光ランプ部を取り外し自由にしただけであって、本願考案と引用例2の考案とは蛍光灯用の部品の取り付け方法が同じではない。また、コンデンサーと点灯管はランプ部に、安定器は装置部に取り付けるものであるから、引用考案1の取り付け部に引用例2の蛍光灯用の部品を取り付けてみても、蛍光灯ランプとして機能するわけではない。

したがって、相違点〈1〉についての判断は誤りである。

(4)  相違点〈2〉の判断の誤り(取消事由4)

審決は、取り外し可能な取り付け部は電気的接続を目的とするものであり、電気的接続を目的とするさしこみ口構造とすることは、当該技術分野において従来周知であるとしているが、取り付ける場所の構造は、取り付ける器具、部品等や、その働きに応じて異なってくるから、上記の点が周知技術ということはできない。

したがって、相違点〈2〉の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

引用例1には「グロー管5eはランプ外管5bの外部に別途設けるように構成することも可能である」(第5頁9行ないし11行)と記載されており、グロー管が放電ランプ内に設けられていないランプユニットの考案も開示されている。また、引用例1には、スクリューソケットに設けられたアダプタに安定器コネクタを介して着脱可能に安定器を設けることが記載されているから、安定器は当然に装置(アダプタ)外部に設けられているものである。さらに、引用例1の明細書及び第1図、第2図からみても、ランプ(5)内にも装置(アダプタ(4a))内にもコンデンサを内蔵する記載はない。

そして、点灯管、コンデンサー及び安定器は、蛍光灯ランプを点灯維持させるためには必要なものであり、これらはいずれも蛍光灯ランプに対して電気接続を要するものである点で共通しており、照明装置の設計上、蛍光灯用の部品類という概念でまとめて扱い得るものである。

したがって、審決の一致点の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

原告は、コンデンサーと点灯管はランプ部に、安定器は装置部に取り付けるものである旨主張する。

しかし、これらの部品はいずれにしても、蛍光灯ランプに電気接続されるものであり、コンデンサー及び点灯管の取り付け場所は、通常は蛍光灯器具に設置され、安定器と同様に蛍光灯ランプに対して取り外し可能に設けられるものであるから、コンデンサーと点灯管はランプ部に、安定器は装置部に取り付けるものでは必ずしもない。また、本願考案は、これらの部品の設置場所を要旨とするものでもない。

したがって、取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

点灯管、コンデンサー及び安定器は、蛍光灯ランプを点灯維持させるために必要なものであり、これらはいずれも蛍光灯ランプに対して電気接続を要するものである点で共通しており、蛍光灯ランプに対し取り外し可能に設けられるのが普通とされているものである。そして、蛍光灯ランプのコンデンサー及び点灯管に対する接続部も、安定器に対するそれも同様の形態をなすものであり、蛍光灯ランプに接続する部品が異なるからといって接続構造が異なるものではない。

一方、引用例1には、蛍光灯用の部品類である安定器を、電球型の蛍光灯ランプ部に設けられた取り外し可能な取り付け部により接続する構造が記載されている。そして、このような電球型の蛍光灯ランプに対する接続構造は、蛍光灯用の部品類である点で共通であるコンデンサー及び点灯管を接続する構造とし得ることは明らかである。

してみれば、コンデンサーや点灯管を蛍光灯ランプから取り外し可能に設けることを明示する引用例2の教示に基づき、引用例1の安定器に対する取り外し可能な取り付け部をコンデンサー、点灯管の接続部として、本願考案の構成を得ることは当業者が極めて容易に想到し得たものである。

したがって、取消事由3は理由がない。

(4)  取消事由4について

電気的接続を目的とする取り付け部をさしこみ口構造とすることは従来周知であるから、取り付け部をさしこみ口構造とすることは当業者が極めて容易になし得たことである。

したがって、取消事由4は理由がない。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

2  本願考案の目的・効果

本願明細書には、本願考案の目的・効果について、「本来の蛍光灯機具とランプのように、ランプが切れたら、ランプだけ取りかえ、機具とランプ全体をすてるという、現在あるランプの不経済性と安定器内蔵の為、価格が高く、機能上小型化しざるえないので、限ぎられた局部的な場所しか使用できない。この考案は、高価、局部的、小型化を取りのぞく為に考案したもので、蛍光灯機具とランプを別にし、本来の器具とランプという形から、器具(機具)は半永久的につかえ、ランプは、必要に応じて、取り替えればよく、ランプの大型化、多用化をはかれ、局部的でなく、全体的に、電球型蛍光灯ランプとして画一できうるものである。」(甲第2号証添付明細書第2頁10行ないし第3頁2行)と記載されていることが認められる。

3  取消事由に対する判断

(1)  取消事由1について

〈1〉  引用例1(甲第3号証の2)中の「安定器コネクタ受6a’およびランプコネクタ受5a’を有するアダプタ4aが一体に設けられたスクリューソケット4と、このスクリューソケット4に設けられたアダプタ4aに前記安定器コネクタ受6a’および安定器コネクタ6aを介し着脱可能な安定器6と、前記スクリューソケット4のアダプタ4aに前記ランプコネクタ受5a’およびランプコネクタ5aを介し着脱可能な放電ランプ5とからなるランプ装置」(第1頁6行ないし15行)、「しかして、スクリューソケット4を有するアダプタ4aのランプコネクタ受5a’に放電ランプ5のほぼT字状のランプコネクタ5aを差し込み、例えば半回転させるとアダプタ4aと放電ランプ5とを一体化し得、このようにして電球ソケットイン型のランプユニット7を構成することができる。」(第5頁12行ないし18行)、「アダプタ4aに安定器コネクタ受6a’および安定器コネクタ6aを介し別体となっている安定器6を接続すれば所謂放電灯原理によって動作点灯するランプ装置を得ることができる。この場合、安定器6は器具内のデットスペースに配置してもよいし、他の適当な箇所に設けても良い。」(第6頁6行ないし12行)、「(ロ) アダプタ、コネクタにより容易に安定器と結線できるので、例えば従来の電球を本考案の放電ランプと交換したい場合、安定器用配線を挿通するための孔を器具の1ケ所にあけ、かつ器具裏または適宜のデットスペースに安定器をセットするのみで、非常に簡易に従来器具を殆んどそのまま使用でき、経済的である。(ハ) 一般にアダプタおよび安定器は長寿命であるが、放電ランプ自体は安定器等に比べて寿命が短かく、消耗品としてのランプはアダプタ、コネクタを介し容易に単独交換でき、ランプに一体に安定器が組み込まれてなる構造の放電ランプに比べ経済的である。」(第7頁4行ないし17行)の各記載(これらの記載があることは当事者間に争いがない。)、及び引用例1の第1図、第2図によれば、引用考案1は蛍光灯用の安定器を内蔵させない電球型の蛍光灯ランプであること、安定器は蛍光灯器具内にあって、安定器のランプユニットへの取り付け方は、安定器コネクタ受け及び安定器コネクタを介してアダプタに着脱可能に設けられていること、この構成により、安定器等に比べて寿命の短い放電ランプだけを交換することができ経済的であることが認められる。

しかして、本願考案と引用考案1は、蛍光灯用の安定器を内蔵させない電球型の蛍光灯ランプである点で一致するものと認められるところ、蛍光灯ランプに直接取り付けずに、蛍光灯器具(機具)から間接的に、取り外し可能な取り付け部を介して取り付けられる部品が、本願考案ではコンデンサーと点灯管であるのに対し、引用考案1では安定器であって、その対象とする部品が相違しており、その点で両者は一致しているとはいえない。

しかし、本願考案と引用考案1においては、蛍光灯用の上記各部品が、蛍光灯ランプに直接取り付けられずに、蛍光灯器具から間接的に、取り付け部を介して取り付けられている点が共通しているところ、審決は、この点に着目して一致点の認定をなし、取り付け部に取り付けられる蛍光灯用の部品が相違している点は相違点〈1〉として摘示しているのであるから、審決のした一致点の認定に誤りはないものというべきである。

なお、引用例1の第2図には、グロー管5eがフイラメント5c、5c間に直接接続されているものが記載されているが、引用例1には「この場合、グロー管5eはランプ外管5bの外部に別途設けるように構成することも可能である。」(第5頁9行ないし11行)と記載されている(このことは当事者間に争いがない。)から、引用考案1は、グロー管(点灯管)を放電ランプ外に設けるものも含むものと認められる。

〈2〉  原告は、引用例1に「安定器を電球ソケット内に入り得る位に超小型化し、」(第2頁19行、20行)、「安定器6は器具内のデットスペースに配置してもよいし、他の適当な箇所に設けても良い。」(第6頁10行ないし12行)と記載されていることからしても、引用考案1の安定器は装置部(アダプタ)に設けられているものである旨主張するが、前者の記載部分は従前技術の説明に関する記述であり、引用例1中の「器具裏または適宜のデットスペースに安定器をセットするのみで、」(第7頁8行、9行)との記載に照らしても、後者の記載部分中の「器具内のデットスペース」や「他の適当な箇所」が装置部(アダプタ)を指すものでないことは明らかであって、原告の上記主張は採用できない。

また、原告は、引用考案1のグロー管5eはランプ5b内部に設けられている旨主張するが、引用考案1が、グロー管を放電ランプ外に設けるものも含むことは上記認定のとおりである。

したがって、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

コンデンサー、点灯管及び安定器は、それぞれの機能の違いに従い、その具体的な設置箇所が相違することは当然であるが、上記の通り、審決は、これら蛍光灯用の部品が取り外し可能な取り付け部を介して取り付けられている点が共通していることに着目して一致点の認定をなし、その上で、取り付け部を介して取り付けられる蛍光灯用の部品の相違を相違点〈1〉として摘示しているのであるから、審決のした相違点〈1〉の認定に誤りはない。

したがって、取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

〈1〉  引用例2(甲第4号証)に「蛍光ランプが損傷しても、この蛍光ランプを簡単に交換することができ、比較的高価で、蛍光ランプより寿命の長い安定器や点灯回路を廃棄することなく再度利用することのできる装置の開発が進められている。」(第1頁右下欄12行ないし16行)と記載され、引用例2の第一実施例を示す第1図ないし第4図の説明として「シャーシ部は、一端に電球形口金である電源口金(11)を備え、他端に開口を有し、この開口にコイルチョーク(12)を取り付け、内部に点灯管(13)、雑音防止用のコンデンサ(14)、内部スイッチ(15)、このスイッチに電気的に接続するシャーシ端子(16)を有するシャーシ本体(17)により構成される。」(第2頁右上欄5行ないし10行)と記載されていることは、当事者間に争いがない。そして、引用例2には、「装置はランプ部とシャーシ部とにわけられる。」(第2頁左上欄3行、4行)、「本発明の蛍光ランプ装置では、蛍光ランプに損傷があった場合などランプ部のみを交換し、交定器を含むシャーシ部をそのまま再度利用することができる。」(第3頁左下欄18行ないし右下欄2行)と記載されていることが認められる。

引用例2の上記記載によれば、蛍光ランプ(ランプ部)と蛍光灯用の部品との寿命の差からくる、蛍光ランプが不良になった場合にまだ使用可能な蛍光灯用の部品を一緒に廃棄するという不経済をなくすために、蛍光灯用の部品であるコンデンサ、点灯管及び安定器(コイルチョーク)を蛍光ランプに直接取り付けずに、蛍光ランプに対して取り外し可能に設けることは、本願出願前公知であると認められる。

ところで、蛍光ランプ(ランプ部)と蛍光灯用の部品との寿命の差からくる、蛍光ランプが不良となった場合にまだ使用可能な蛍光灯用の部品を一緒に廃棄するという不経済をなくすという、引用例2の考案の目的は、前記2において認定した本願考案のそれと異なるところはなく、引用例2は上記目的を達成するために、蛍光灯用の部品であるコンデンサ、点灯管及び安定器(コイルチョーク)を蛍光ランプに直接取り付けずに、取り外し可能に設けることを教示するものである。そして、引用考案1は、安定器を蛍光灯ランプに直接取り付けずに、蛍光灯器具(機具)から間接的に、取り外し可能な取り付け部を介して取り付けるものであり、この構成により、安定器等に比べて寿命の短い放電ランプだけを交換することができ経済的であることは、前記(1)に認定のとおりである。

また、蛍光灯においてコンデンサーと点灯管をフィラメント間に設けることが周知であることは、当事者間に争いがない。

そうすると、本願考案の目的を達成するために、引用例2の教示に従い、コンデンサー及び点灯管を蛍光ランプに対して取り外し可能に設けることとし、その場合に、コンデンサー及び点灯管を引用考案1の安定器に対する取り外し可能な取り付け部を介して取り付けることとし、その取付けをフィラメント間にすることは、当業者が極めて容易に想到し得ることと認めるのが相当である。

もっとも、引用考案1の安定器用の取り付け部をコンデンサー及び点灯管用に用いることとすると、安定器の取り付け部をどのようにするのかが問題となるにもかかわらず、審決はこの点に触れておらず疎漏のそしりを免れないが、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、安定器は電球型の蛍光ランプに内蔵させないと規定されているだけであって、その接続構造が特定されているものではなく、また、安定器はこれがないと蛍光ランプが機能しないのであるから、蛍光ランプに内蔵させずに、電源とフィラメントの間の適宜な位置に安定器を接続するようにすることは、当業者であれば当然考えることと認められるから、上記のような判断の不備をもって審決を取り消すべきほどの違法があるとは認め難い。

〈2〉  原告は、引用例2のものは、コンデンサ、点灯管、安定器等を、蛍光ランプ部と部品的に取り付けるもので、取り外し可能に設けたものではなく、蛍光灯用の部品の入った独自のランプ装置に、この装置にしか使えない蛍光ランプ部を取り外し自由にしただけであって、本願考案と引用例2の考案とは蛍光灯用の部品の取り付け方法が同じではないし、コンデンサーと点灯管はランプ部に、安定器は装置部に取り付けるものであるから、引用考案1の取り付け部に引用例2の蛍光灯用の部品を取り付けてみても、蛍光灯ランプとして機能するわけではないとして、相違点〈1〉の判断の誤りを主張する。

本願考案と引用例2の考案とは蛍光灯用の部品の取り付け方法が同じでないことは、原告主張のとおりであるが、引用例2の上記記載及び第1図ないし第4図によれば、引用例2のコンデンサ、点灯管等の蛍光灯用の部品が、少なくとも蛍光ランプに対して取り外し可能に設けられていることは明らかであり、審決が引用例2を引用している趣旨は、引用例2に本願考案と共通する目的が開示されており、その目的のために、蛍光灯用の部品が蛍光ランプに対して取り外し可能に設けられていることを示すためにすきず、本願考案と引用例2の考案とが蛍光灯用の部品の取り付け方法において同じであることを示すためのものではない。また、審決は、引用例1の取り付け部に取り付ける蛍光灯用の部品をコンデンサー及び点灯管とし、その取付けをフィラメント間にすることは容易であるとしているのであって、引用例1の取り付け部に、そのままで引用例2の蛍光灯用の部品を取り付けることが容易であるとしているわけではない。

したがって、本願考案と引用例2の考案とは蛍光灯用の部品の取り付け方法が同じでないこと、及び引用考案1の取り付け部に、そのままで引用例2の蛍光灯用の部品を取り付けることを前提とする原告の上記主張は採用できない。

〈3〉  以上のとおりであって、相違点〈1〉についての審決の判断に誤りはなく、取消事由3は理由がない。

(4)  取消事由4について

取り外し可能な取り付け部は電気的接続を目的とするものであるところ、電気的接続を目的とする取り付け部をさしこみ口構造とすることが当該技術分野において従来周知であることは、乙第2、第3号証によっても明らかであるから、取り付け部をさしこみ口構造とすることは当業者が極めて容易になし得たものと認めるのが相当であって、相違点〈2〉についての審決の判断に誤りはない。

原告は、取り付ける場所の構造は、取り付ける器具、部品等やその働きに応じて異なってくるから、上記の点が周知技術ということはできない旨主張するが、採用できず、取消事由4は理由がない。

4  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

別紙図面3

〈省略〉

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